□ 9坪の家 平成14年5月4日
「小さくする」。凝縮され、ディテールなどが消去されることによって、そぎ落とされた中に感性、理性が浮き彫りになった表現としてあらわれる。 建築家 増沢 洵の「最小限住居」1952年。現在は自分と研究室の同窓の息子さんが増沢建築事務所を運営している。戦後住宅事情が厳しかった時、多くの建築家が「最小限住居」の提案をし、工業化構法あり、和風あり、モダンリビングあり、数々の名作が生まれ現代の住居の住まい方の原型となった。増沢邸はその中でもそれまでの日本の木造建築の手法と異なり、「小さい」けれど「空間の構成のされ方」を明確にした画期的な住居。3間×3間の1階は正方形の平面で9坪、2階は3坪分の吹抜けがあり6坪、合計15坪の住居。南北を2分割、東西を3分割した交点に柱がある。立面も平面と同じように綺麗に6分割。この分割の方法が大切な訳で、「小さくする」という禁欲的な設計方法の中で、平面で柱・梁の6分割、立面で6分割されることによって目に見えない直方体のキューブが入れ子のように組み合わさり、「小さい」中に住み手の行動と複雑にかみ合って「拡がり」が多様に展開される「形式」が見えてくる。従来の日本建築の柱・梁架構が平面的な均質な透明性をつくり出すのに対して、同じ柱・梁架構で壁的な内部に向かって立体的な透明性をつくり出している。 日本の伝統的な柱・梁架構の建築は、ふすま・障子などを取り外すと、そのまま外部へとつながっていく。柱・梁架構だから、常に「足し算」的な設計方法になり易い。庭があり、軒のある縁側、居室へとつながり水平的な展開が容易である。「間取り」といわれる所以である。 「9坪の家」萩原 修著、廣済堂出版。増沢 洵の「最小限住居」の軸組の展示会にプロデューサーとしてかかわった著者が、この「最小限住居」に魅せられ、土地取得から始まって実際の現在の生活様式にアレンジして建てたプロセスが書かれている。壁の表現などに気になる点もいくつかあるが、著名建築に凝縮された設計方法と時代背景との距離を常に測りながら建築をつくりあげる、「リ・デザイン」も1つの方法なのかもしれない。
|
「森の声」 CONTENTSに戻る |