□ 自然 平成14年5月12日
‘自然’に接するときに、洗練された都市への回帰を想い起こされる接し方もあれば、自然発生的なルーラル(粗野)な自然に接し、心和むふれあい方もある。 群馬水上・谷川の「天一美術館」。著名な建築家吉村順三氏設計。地元ではあまり知られていないようだが、年に何回かは訪れる。中学時代の美術の教科書でなじんだ岸田劉生の「麗子像」を始め、熊谷守一、青木繁など銀座のオーナーの集めた個人収蔵美術館だ。美術品を鑑賞するよりは、館員の接遇のスマートさを始め、透明な時間が流れるのが気に入っている。白い内壁と木のフロア−に自然光が巧みに映え、訪れる人に清潔な、静かな時間を提供してくれる。いついっても殆ど人は少ない。観光に訪れた人がたまに訪れるだけである。一階の突き当たりのゆっくりとすわれる木質の椅子を配置したラウンジがいい。スロープの先の大きな四角い窓ガラスごしに見える、切り取られた谷川の自然。植込み、谷川の水をめぐらせた池などデザインされ、洗練された外部空間。谷川岳のマナイタ倉の岩肌が目の前に迫る。そこにあるのはあえて洗練された自然に対峙することによって、自然から都市へのノスタルジーを想い起こされる。銀座でこの美術館の存在を宣伝しているのも都会の人たちが、群馬の山奥の自然を充分に楽しんだあと、都会へ回帰するという清涼感と心の準備を与えるために洗練された自然があるとうなずける。 最近は上毛高原の駅を降りると蛙の大合唱が始まった、田んぼに水も張られ、のどかな田園風景がかたちづくられていく。少し車で足を延ばせば、山々の自然、新緑の芽ぶきはかなりのいきおいだ。きれいな水が流れ、山が新緑でかたちを変えだし、新鮮な空気が流れ出す。どちらかといえば、手を加えられていない、巨大なルーラルな自然の宝庫、自然の中で暮らしていてよかったと、しっとりとしたおだやかな感覚が呼びおこされる。 自然の宝庫にかこまれた自宅だが昨年、家の前の都市計画道路がきれいなカーブを描きながら見通せるように完結した。赤いインターロッキングでペーブ(舗装)された舗道と、白と赤の「アメリカ花水木」の手を加えられた街路樹の間を歩くと、少し都会的な自然を味わった気がして、忘れていた別の姿がおもい起される。日常と非日常の間を確かめながら毎日がくり返されていく。 (財)天一美術文化財団(03)3571-5711、天一美術館(0278)20−4111。年中無休。 URL http://www5a.biglobe.ne.jp/~tenichi/ より写真転載
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