□  火葬場                                       平成14年8月5日



 ‘火葬場’の研究で建築学会賞を受賞した、共立女子大学教授、八木沢壮一先生の話を聞いた。建築計画の話はいつ聞いても楽しいし、‘火葬場’という他人の研究実績の殆んどない分野は一層興味をそそられた。「故人を心から追悼する在り方が問われている」。

 ‘火葬場’は手探りの研究。明治以降どんな用途の建築でも西欧にその教科書を求めることができた。‘火葬場’は違う。ギリシア・ローマ時代には火葬の風習はあったが、キリスト教の世界では基本は土葬。土に埋めて自然に帰すのではなく、土の中に保存、復活の考えが一般的。近代化の過程で西欧は手本にならなかったのである。

 「本来、葬儀場、火葬場、墓はワンセットだった」。墓は火葬場を中心に作られていた。明治のはじめ、江戸時代までの檀家制度で浸透した仏教の影響を排除し、神道を重視し火葬を禁止したのである。「2年で復活し、再開したときは伝染病対策など衛生対策と結びついてしまった」。もともと‘火葬場’の建築の機能は亡くなった人を確認させられる場所であり、人が亡くなるのを当たり前のこととして受け入れる状況、雰囲気が求められている。「最近の火葬場は豪華だがどこかニセものっぽい」と。

 「自然に抱かれて眠りにつく」。香川県三木町で八木沢教授が設計した「しずかの里」のスライドの映像は、完結した物語性があった。全国どこでも反対運動が起き易い性格の施設に対して、町当局の努力の積重ねも大事で評価されるが、人々が生活する‘里’に作ったことであり、アプローチしてふりかえると近くに亡くなった人の生活してきた‘里山’が見渡せ、池のほとりに円弧を描いた回廊に沿って施設が建てられている。里山と逆方向の内部に入ると、祭壇の大きなガラス窓からは窓越しに山に向かって四季折々の変化をみせる‘棚田の風景’が遺族の心を癒す‘静謐’となってはめこまれている。



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