□  自己ベスト                               平成14年8月29日



 5月・6月山手線の自動改札にかなりの数の「自己ベスト」のCMシールが貼られていた。何の事か良く分からなかったが、新しいアルバムのCM。そういえば、自分と同時期、同じ大学の建築計画専攻のミュージックアーティストの作品、修士論文は‘建築への訣別’だったような気がする。

 先日のNHKのTV番組。金沢でのコンサートの模様と対談の様子が放映されていた。かなりの人気で200万枚以上の売れ行きだそうだ。学生時代はあまり見掛けなかったが、ずーっとグループで地道に音楽活動をしていたらしい。隣の研究室だった所為もあって、新しく出たLPレコードを前にして研究生同士の会話が弾んでいた。修士論文を終えて卒業したあたりから、グループとしての人気はかなり高まり、FMからも流れる回数が多くなり、自分も、高い声の繊細な都会的な雰囲気のある軽い曲が気楽に聴ける事もあって車中での気に入ったミュージックテープの1つに加えたのである。

 ‘建築への訣別’。建築を学ぶ人にとっての論文にとって不相応しくないとの理由で、論文はかなり議論の対象となった筈。建築を真正面からとらえた教授が論評するのだから、この表題にはかなり厳しいものがある。建築は、空間をつくって人に感動を与え、人の心を、考え方を動かし、時代精神の反映としてかたちづくられる。しかし音楽には建築以上に人の心を大きく動かす魅力がある。要約すると、こんなところから‘建築への訣別’が論文として出されたのである。結局、論文は違う表題に変えることによって受理。

 「自己ベスト」。人気がソロ活動になっても衰えることなく上昇している。若い人から自分たちの同世代、団塊の世代まで多くの人達が聴いている。TVの主題歌だったり建築的な雰囲気が漂った映画まで制作を手がけている。‘建築への訣別’、建築への思い入れへの裏返し、常に学生時代の建築計画の原点との距離を計りながら、人を動かし、人に感動を与えるアーティストとしての大きな力を持ち続けている。

 

ご意見、ご感想は ndk-aoyagi@ndk-g.co.jp まで


「森の声」 CONTENTSに戻る