「プロジェクトマネジメント(PM)の定義」は建設活動全体に亘り、「スケジュール管理」、「コスト管理」、「情報管理」、「建設管理」、そして「事業主の管理」に携わることである。米国において、1974年にPM/CMが建設投資額の極端な落ち込みとともに発生した。建設業界がいかに生き残るかを模索する中で、事業主の心と懐により深く入り信頼と満足を勝ち取り、事業主の代理とし「て安くてよいものを作り上げる」というマネジメントソフト業務である。今の日本、建設投資額が一時期の80兆円台から50兆円台、いやそれ以上までに落ち込むといわれ、PM/CMのシステムが立ち上がった米国の状況をアナロジーとしてなぞることが出来る。一つ一つのプロジェクトの中身を、丁寧なプロセスを事業主はそして国民は知りたがっている。建ててしまえばそれで終わりという建設生産プロセスは確実に終わりを告げようとしている。日本市場へ参入する外資系企業のグローバルなシステムへの建設プロセスの移行、日米構造協議等による外圧による建設市場の開放なども拍車をかけていく。
今までの建築生産プロセスは「企画」、「設計」、「施工」、そして「使用」とコストの流れを中心に直線的に上流から下流へと流れたが、この方式では、下流からの貴重な意見を取り入れることなくプロジェクトが進んでいくことになる。これに対して、下流の人の意見を取り入れやすい「リエンジニアリング」の手法が無駄を省き、コストダウンを計るということで注目されだしたが、この方法を更に一歩進んで推し進めたのが、上流も下流もない、わかりやすく言えばイメージとして円卓を囲む、「コンカレント方式」。この「同時的発想」の方式が、各立場の人がそれぞれのコストを持っている中で、全体を統合的にまとめて調整し、プロジェクト実現を目指す、コストに強いプロジェクトマネージャー(PMr)の存在を明確に浮き彫りにする。
事業主から最大限の建設費を引き出せる能力があるかどうかが何年か前の設計者の能力。設計した建築に対して、上手に理念を説明することによって事業主は、建設費を資金調達限度いっぱいまで出すことになった。今の時代、企画、デザインに加えてコストをきちんとマネジメントする能力が強く求められている。それも初期投資の段階からリアルタイムに、瞬時に連動したコストプランニング能力が要求される。建築プロジェクトの「理念」と「経済的な合意」を統合調整するのがマネージャーの仕事。建築プロジェクトを実現する担い手は、ますます専門分業化しつつある。「事業企画・計画」と「設計」、「施工」、出来上がった建築の「使用」と大きく分ければ4つの分野に分けられる。各分野ごとにマネジメントする人間が存在するが、各分野の隙間を統合的に埋める人物が必要であり、それぞれの役割分担をコストを中心にして結びつける役割がプロジェクトマネージャーである。
プロジェクトを結び付けているのはコスト。プロジェクトマネージャーは、建築一般の他にコスト全般に亘っての知識が必要であり、操作することに堪能でなければならない。プロジェクトの成立にはコスト認識が不可欠。日本の社会の仕組みは発注段階から永年培われてきたウエットな社会構造の中であいまいなままで発注が行われてきたのが実情。30数年前に工場を施工した建設会社に引き続いて何も考えずに発注を依頼するとか、友人がいるとか、仕事を受注するために手伝いをしたとかいろいろなしがらみの中で特命に近いかたちで発注が行われてきた。契約関係自体もあいまいな中で推移していく、別の見方をすれば、ある意味では良い意味での日本の契約社会。全てのものをあいまいな中で飲み込んでしまうのが請負制度。いきおいコストの流れはブラックボックス化。上流の立場の人が下流の人に対して、コストを不透明にすることによって、下流の人にコストカッテイングの皺寄せとなって転化してしまう。「企画」、「設計」、「施工」、「使用」という全体の流れの中でオープンにされた中で「一貫性」をもったコストコントロールできるかがプロジェクトマネージャー(PMr)の能力にかかっている。公共事業、プロジェクトマネジメント手法導入の行動計画が2004年度を目途に導入環境整備、導入展開へと動き出しているのも大きな変革期の社会的要請である。
(青柳 剛)
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