□ 「沈黙の同意」 平成14年12月6日
同じものを大量に繰り返しつくっていく大量生産、ピラミッド型の組織が効率のよい組織。ヒエラルキー(階層)をきちんと組み立てる事によって職務権限、役割分担も明確になっていく。「ものをつくりあげる」企業組織にとって必要なのは、つねに新しい事にチャレンジすること、変化に柔軟に対応していくフレキシビリテイ、そしてクリエイテイブ精神。ピラミッド型の硬直した縦の組織からフラット型の弾力ある横の組織、なんでも自由に「個」の意見が変化に対応して反映できる組織が求められている。 仕事が順調に推移しているときは良い、クレームが発生した行き詰った厳しい時が問題。行き詰った厳しい時こそ、打開策を検討して情報を集め知恵を真剣に出し合わなければならない。ところがいろんな角度の打開策、問題点を突き詰めていく途中でクレーム発生当事者本人が自分の意見を言うどころか全く「沈黙」してしまう状況はよくある話。先日訪れた若手経営者との会話。そういえば自分たちの会社も同じ、いきなり「沈黙」してしまう人間はいる。判断を求める会議に自分の意見をしっかり述べるどころか黙りこくってしまう。どうでも良い会話がいくら饒舌であっても肝心な局面で「沈黙」ではたまらない。決断する材料を提供してくれない、役に立たないのである。 自分の意見をしっかりもってディベートを繰り返す技術は大切。建築の設計は行きつ戻りつしながら常に思考錯誤と共同作業の繰り返し。共同作業だから打ち合わせは常に追いかけてくる。「打ち合わせミーテイングで一言も発しない、発せられない人はいくら能力があっても無能とみなすよ」は大学の恩師の手厳しいアドバイス。自分で駄目な案、考えだと思っていても別の見方をすれば最良の案、考えとなって拡がっていく事もある。ブレーンストーミングの大切さもこんなところにある。 「小学生の頃は活発に手を挙げる。それが18歳になるまでに変わってしまう。何故かというと大学の入試問題では試験問題をつくった人間の意図していることをどう読み解くかという技術が必要とされる。自分が考えた事を相手に説得する事ではないのである」、東京大学船曳建夫教授が「沈黙の同意」の成り立ち過程を文化人類学者の目で書いている。大袈裟に言えば国民皆黙っているのかも知れない。一握りの人にお任せした「同意」、政治の無関心もこんなところを考えれば理解できる。若い人が育ちにくい、育ちたくない社会だからいつまでたっても老人の跋扈がはびこる。多様な価値観が求められ、ものをつくって売るサービスの時代。経営者とダイレクトに結びつくフラットな組織は全員の起業家精神によって支えられている。フラットな組織は一言で言えば序列のない円卓。起業家精神を培うのは円卓で毅然とした「不同意の姿勢」を取れるかどうかにかかっている。それでも国民みんなが「沈黙の同意」、とりあえず声を出す事、大きな声でしっかり挨拶をする事ぐらいの身近な事から始めようか。 (青柳 剛)
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