□ 価格と価値                                                     平成15年5月8日


 「価格は価値のことである」。欲しい人が沢山いて品物の数が少なければ価格は自ら高くなる。大量の品物が供給されることになればその逆、安くなる。需要と供給、市場原理の基本である。価格を決定するのはかかった労働力と技術力。国内の磨き上げられた技術力を殆どゼロに近い安い労働力の国に持ち込んで大量生産していけば価格は下がる。日本はもちろん世界中の国が安い労働力の国を廻って商品をつくり、世界中それまでとても考えられないほどの安い価格の商品、衣料品などが出回り続けてきた。厳しい経済情勢の中、国民全体の年間所得も下がり続け安い価格に目が向くのは仕方がない。忘れてならないのは安い価格のとりあえず間に合わせの品物を持ち続けることによって日本人の価値の感覚が麻痺していくということ。間に合わせの価格の価値に慣らされていく。

 それでも最近は「価格破壊」という言葉も聞くことはなくなってきた。次々に低価格路線を打ち出し、デフレ価格を先導してきたファーストフード業界が変わり始めている。毎日新聞(2003年、5月4日)、低価格競争もう限界の記事。00年2月にハンバーガー1個当たり平日半額65円から始まり、売上高の前年割れ、そして値上げ、顧客離れが止まらず02年8月に過去最低、考えられないほどの価格59円になったのには驚いていた。価格に振り回されていても客足は遠のくばかり、結局は先月23日ファーストフードのハンバーガーでは最高値の「プレミアムバーガー」270円を売り出した。「価格破壊」、低価格一辺倒で走り続けることは難しい。利益を確保するためには高付加価値商品で顧客を繋ぎとめることへと方針の転換を計ったのである。

 安い価格で顧客をひきつける、価格に頼ることは一番楽な営業姿勢となる。自分の会社でも一品一品現場で時間をかけた在来工法の住宅をつくっている、もう一方では工業化住宅を提供し顧客とのふれあいを求めている。工業化住宅の提供だから最初は本当に見えない顧客を相手にしなければならない。テレビコマーシャルなどで顧客はブランドとしてのイメージは抱いていても、最初の接点はカタログ、チラシ、DM、現場見学会などがきっかけとなって始まる。1年ほど前からきっかけのカタログ、チラシに「坪いくら」、「1棟いくら」の価格表示は敢えて謳わない。価格は工業化、省力化されているから、現場で一品一品つくりあげる住宅と違ってプロセスが均一化、凝縮された分、品質を保ちながら安くなっていることには自信がある。それでも他のメーカーと価格で競っていても始まらない。安い価格へと頼らない姿勢が工業化住宅の付加価値を顧客にきちんと説明し、納得してもらうことへの必要に迫られ価値は浮き彫りになってくる。

 ゴールデンウィークの最中は自分の住んでる地域の野菜の直売所は大人気だった。価値を求めて人がやってきた。今の季節、新鮮な山菜、「こごみ」、「のびる」、「山椒」、「ふきのとう」、「うるい」、「たらの芽」、「こしあぶら」、「行者にんにく」、直売所で発見して食べてみるのは本当に楽しい。ファーストフードにはない価値がある。全国展開の考えられないほどの安い価格の衣料品に驚き感激した感覚、000円ショップの感覚、とりあえず安くて無駄にはならないから買っておくという感覚は日常の生活でひきずられていく。一次取得の住宅だからといって価格だけに目が向いた住まい、住居は積み重ねられた時間と記憶をかたちづくっていく舞台であるという感覚を押しやっていく。間に合わせの感覚が蔓延していくことの怖さ。間に合わせの価格の価値に慣らされた感覚は価値の感覚を麻痺していく。良い価値のものを買った、食べた、身に着けた、住んだという感覚はちょっと上から見た自分の価値観を映しだす鏡である。自分自身が磨かれていく。「価格は価値の格のことである」。

                                          (青柳 剛)


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