□ 眠れない夜                                                   平成15年5月21日


 二週間ぐらい前の日本経済新聞に載っていた記事だと思うが、確かに四十九歳の年齢が肉体も精神も曲がり角のような気がする。その近辺の年齢までは何があっても眠れない、イライラすることなんて滅多になかった。二十歳代は枕元に好きなブドウパンまで置いて寝ていた。疲れれば延々と眠り続けるのである、途中で食事を摂るために起き上がる間がないくらい眠り続けるのにブドウパンを置いておく。ほんとに良く眠れた。四十歳代後半から確実に睡眠のことが気になるようになってきた。些細なことが気になって眠れない、眠れたとしても睡眠が浅い。明け方早く目が醒める。最近は自分の手相が六十歳代の運命線が消えているなんてどうでもいいことまで気になりだした。それでも眠れなかったら起きていればいい、早く目が醒めたら起き出せばいい、そして本でも読んでいればいいと考え出すようになってきた。四十九歳を過ぎたら眠れないことが新しく身に付いたと思えばいい、考え方を変えればいい、そしていつかは眠くなる。

 眠れなくなった、眠りの浅くなった今の自分を否定するからますますストレスは溜まっていく。泥のように眠っていた自分に戻りたい、前の自分が良かったと悔やむから辛くなる。眠くて眠くてどうしようもなかった時代は朝、人との約束はとんでもなかったし、遅刻を防ぐのがやっとだった。朝の仕事は寝ぼけ頭から抜け出せなくてなかなか捗らなかった。今は四十九歳を越えたおかげで他人より早く出社できるし、その気になれば毎日一番乗りだって出来る。眠れないことは「悪」、眠れることを「善」と決め付けるから悪い方向へと気持ちが進んでいく。それでも眠りやすい枕を選ぶとか、ぬるめの風呂にじっくり入るとか、軽い運動をした後身体が冷えてきたとき眠りにつけるとか、足の裏にスーッとした肩こり剤を貼るとか、寝酒とか、快眠を誘いそうな方法は沢山ある。快眠法を実行して眠れなかったらもっと辛いものがある。眠れない自分をそのまま評価していくぐらいの気持ちがあれば眠りを妨げるストレスからは逃れられる。

 ストレスは不安感、イライラからやってくる。不安感、イライラが募ると手のひらにじっとりと汗をかく。指先までの痺れ感まで出てくるから本当に辛くなってくる。汗をかくのは多分心臓の動悸が激しくなった結果だと勝手に自分で思っている。ストレスを治すのには気分転換が一番、しばらくストレスのある状態から離れることが一番とよく言われてきた。確かにそうかも知れない。同じ不安なことが続いているからストレスはやってくる。映画を見たり、音楽を聴いたり、旅行に行ったり、スポーツに熱中したりすればいい、そして現実逃避の酒も役に立つ。不安感があってイライラしているからストレスは限りなく心が落ち込んだ状態になる。考え違いしていけないのは落ち込んだ気持ちに逆に元気を出す音楽、映画を求める気持ちに向いていくこと。励ましの言葉は逆効果。落ち込んだ気持ちには落ち込んだ静かな音楽、映画でいいのである。ロッキーの映画とテーマ音楽では逆効果、そして旅行は日本海の夕陽を見るくらいの人気のない一人旅が役に立つ。

 銀行の公的資金導入のニュースまで舞い込んできた。経済情勢はますます厳しくなっていく。明日の不安を抱えている人はもう数え切れないほどになった閉塞状態が続いている。ストレスを抱え込んで「眠れない夜」を過ごす人は多い。考え方を変えていくしかない。眠れないことがそんなに重要だと思わなければいい。確かに夜と朝に読む本の量は多くなってきた。本の中には自分の体験出来ない、出来なかったことが沢山書いてある。これも「眠れない夜」のおかげである。眠れないことがいけないこと、眠れることが良いことと思うからいけない。今現在とんでもない七ゲーム差離れている首位攻防戦、巨人の原監督は眠れない、今日ヒットの打てなかったプロ野球選手だって眠れている筈がないのである。どこの国の首相だって寝ている筈がない。「眠れない夜」が続くことが人生、後になって考えてみると「眠れない夜」の時が楽しかったりする。さあっ本屋に行って本を買いこんでこよう、どんな本でも役に立つ、そしていつかは深い眠りがやってくる。

                                          (青柳 剛)


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