□ パーミッションマーケティング                                         平成15年5月30日


 日産の車に乗っている顧客からトヨタの車に買い換えて貰うことは大変。いくらトヨタの車の性能が良くて、その上故障したらトヨタのディーラーサービス網が全国どこにだってあって30分以内にすぐに駆けつけてくれるきめ細かいサービスが出来ていてもなかなか今までの車のメーカーから買い換えることは難しい。変えて貰うエネルギーは、ただ同じメーカーの車を売るエネルギーの5倍はかかると言われている。逆に考えれば如何に今までの顧客を他のメーカーに目を向けさせない、取られない戦略が大事ということになる。一度家を作ったら二度と作らないからといって追いかけないのは間違い。リフォームもあれば子供も将来家を作るかもしれないし、知り合いの紹介にも繋がっていく。如何に一人の顧客を深く囲い込めるかにかかっている。100人の顧客を追い続けるより継続した1人の顧客をしっかり深く追いかけなければならない。量を売るのがマスマーケティング、その対極にあるのがパーミッションマーケティングの世界である。

 CM女王菊川怜が何と何の宣伝に出ているか、藤原紀香がどこの会社のイメージキャラクターだったかすぐには出てこない。ブランドとしてのフワーッとしたイメージしか思い浮かばない。自分達の工業化住宅のイメージキャラクターの松たか子がどこまで浸透しているか心配になってくる。その点カップヌードルのCMは強烈だった。それでもイメージ戦略でお金をかけて展開していくのは売っていく商品の種類に限定されていく。量を売っていくマスマーケティングの世界は到達点がある。壁に突き当たる。売り切ってしまった時、飽和点に近づいたときのことをいつも考えた戦略は練っておかなければならない。原価380円、いろんな諸経費をいれて900円強だった1980円のフリースは感心するほどのヒット商品だったし、ビジネスモデルだった。もうそれでも3500万着も売ってしまえば誰でも着ている国民服になったのかも知れない。成功した結果マーケットの壁に当たることになる。そして同じように都心のマンションは今売れ行き好調、同じものを作っているだけならばいつか壁がみえてくる。イメージ戦略を始めとして今までの日本は大量に良いものを効率的に売っていくかということに膨大なエネルギーをかけてきたのである。そういったマスマーケティングに向いていた目を見直す、脱マスマーケティングの時期に来ていることだけは確かだ。

 電気店の量販店が競争し続け日本全国出店ラッシュが続いている。今までの個人経営の電気ショップ店が消えてなくなってしまうかの勢いだがなかなかそうはならない。しっかり売り上げを伸ばし利益を上げている小さなショップ店の数はかなり多い。電球一つからから始まって家電製品のメンテナンスまで面倒見てくれるショップ店は便利、今後高齢化社会の中でますます需要は高まっていく。分からない電気製品のことを聞く相手が欲しい。顧客と供給者の間で顔が見える日本的な手作りの流通チャンネルである。お互いの顔が見えていなかった一方通行のマスマーケティングから顔が見える形のパーミッションマーケティング、参考になるサクセスストーリーは沢山ある。狂牛病が出てダメージを受けたが同じ牛肉を食べるのにも食べ方がある。一流の料理屋のすき焼きは本当に高価だがうまい、精神的な満腹感まで伴ってもう一生食べなくても良いような気分になる。どちらかというと牛肉を日本酒で味付けしたコッテリ感がいっそうその気にさせていく。ところが安い価格、280円の牛丼チェーン店、又2-3日したら食べたくなるあっさり感の味付けがポイント。酸味の強いワインで牛肉を煮込んでいる。おまけに牛肉が薄いから又来たくなる。厚くしたらもう来ないのかもしれない。一人の同じお客が継続して来店すること、顔が見えることに全精力を注いでいる。

 今、目に見えている顧客を徹底的に追いかける。一人のお客にものを売るのでなくて継続して深く追いかけていく。経済が高度成長のときは極端に言えば品物を作れば、新しいお店を作れば大した工夫することもなしに何でも売れていった。お客が湧いてきたのである。「そごう」特需があったといってもデパートの売り上げが落ちてきたのはこの辺の成り立ち過程から抜け切れていないからとも言われる。新宿に本店がある一店のみが勝ち続けていると言われていても今年の決算は陰りが見えてきた。父親の背広は裏返して何年も使えるほどしっかりしていた。背広は父親の代は街のテーラーに頼んで作ってもらっていたのがデパートでどんなかたちのものも「吊るし」で手軽に選べるようになったのは画期的なこと、それでも背広のメーカーにデパートがフロアー貸しをしただけだったからどこのデパートにいっても自分の背広を買う面白みがなくなってしまった。同じメーカーが売っている。どこのデパートに行っても同じメーカーの背広が並んでいる。フロアーだけの丸投げになってしまったのである。構造不況業種といっても建築の世界でリフォーム、デザイナーズマンションなどは元気がいい。限りなく川上まで上っていく営業展開が出来るのがリフォーム。川上だから相手の顔もしっかり見える。小さなふれあいから始まっていく。工夫して提案していく。ビフォーアフターの仕上がりは困っていることを改良したんだから喜ばれる。ただものを売っているのではない、顧客の感動する顔が見えることを売っている。そして仕事は繰り返して次に繋がりながら見えてくる。今いる自分のお客を徹底的に深掘りする、パーミッションマーケティング、「深堀商法」のことである。

                                          (青柳 剛)


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