ほくほく線                                                   平成16年1月21日


 確かに便利になった。移動時間を短縮するには高速交通手段は最高。去年の11月のある週の行動記録。週始めに朝の新幹線で東京、帰りがてらに東京の現場によって施主と打ち合わせ、新幹線に乗って帰りその足で高速道に乗って前橋、翌日も朝の新幹線、大阪で研修会泊まり、翌日滋賀まで行って帰りは飛行機と新幹線。翌日金沢日帰り、その足で新幹線東京まで。移動した距離を計算すればとんでもない距離になる。合理的でスピードがあれば効率はよくなっていく。それでも効率だけを追い求めているといつの間にか忘れてしまうものがある。

 20年も前なら若さも手伝って夜行の急行で一晩がかり、「特急ひばり」でも大宮乗継なら6時間もかかっていた。どうしても年内に親戚に会っておかなければならないからといって出かけたのが本当に押し迫った暮れの30日。朝の7時台の新幹線で出かけて大宮乗換え仙台まで、10時にはもう仙台駅に着いていた。大宮―仙台が1時間ちょっとで簡単に着いてしまう。何年かぶりに会った親戚と仙台の奥座敷作並温泉の日帰り温泉、ゆっくり休んで昼食までとることが出来た。後は久しぶりに暮れの仙台の街を歩いて夕方の新幹線に乗ってあっという間に自宅。こんな事はなかった。合理的でスピードがあれば効率は良くなっていくし本当に便利になった。

 いつも選択するのは合理的なスピードのある交通手段。そんな中でも他の高速交通手段がなく仕方なく乗るのが越後湯沢乗換え金沢までの「ほくほく線」。特急電車でも新幹線とは違う。車窓から見る目線が違う。景色を見るアングルが違う。スピードももちろん違う。ディテールが浮き彫りになって目から身体全体に滲みこんでくる。十日町あたりのトンネルと途切れ途切れになった家並みと自然の風景は四季の変化をいつも敏感に伝えてくる。荒れ狂った日本海は冬の厳しさを目の当たりにぶつけてくる。夏の終わりの秋色に染まりだした日本海は一気に旅情を醸し出してくる。そして、到着した金沢駅で鬼束ちひろの「いい日旅立ち」でも流れていればもう最高だ。

 最近は、生活列車に乗る事は殆どなくなってしまった。いかに移動時間を短縮できるかどうかが選択の基準。移動時間を短縮すれば時間は効率的に使える事が出来る。効率だけを追い求めているといつの間にか忘れてしまうものがある。「ほくほく線」、名前からしてほのぼのした感じが伝わってくる。線路が茶色い砂利敷きだったことなんか忘れていた。たて板張りの家並みと四季移り変わる自然。電車の音と揺れまで心地いい。そして生活感のあるにおいまでが伝わってきそうだ。月に一度の金沢行きの「ほくほく線」に乗る事は忘れていたものを思い出させてくれる。列車に乗る事それ自体が楽しくなってくる。


                                          (青柳 剛)

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