「浮かんでは消え、浮かんでは消え、・・・」こういった思考のスパイラルにうまく入れれば文章はどんどん書いていく事が出来る。止めどもない考えがいつも頭の中を駆け巡り出す。考えていることの増幅は果てしなく続いていく。寝ても醒めても、車に乗っていても、そして新幹線に乗っていても思考の幅は拡がっていく。他人との会話はもっと思考を手易くしていくし、見るもの聞くものすべてに敏感に反応する。浮かんでは消えていく思考だからすぐに浮かんだ考えはメモしなければならない。ほおっておけばそのままになって又消えていってしまう。書き留めたメモから新しい思考の展開が始まっていく。この数ヶ月間、「森の声」、空白の季節だった。何もしなかった訳ではない。何も考えなかった訳ではない。ただ、「パッシブな思考回路」に落ち込んでいただけだったのである。
50年ちょっと生きてきて、小さな会社でも経営者として活動していればとんでもない事に巻き込まれる事は儘ある。それでも巻き込まれた火の粉はなんとしても振り払わなければならない。どんどん降りかかった火の粉は、止め処もない勢いで押し寄せてくる。いきおい、あれやこれやと考えながら、火の粉の対応だけに終始する日々が続く事になってしまう。それこそ寝ても醒めても考えるのは降りかかった火の粉のことだけ。他の事がぜんぜん頭の中に入らなくなってしまう。考える容量は火の粉で満杯状態だから何も入ってこない。見るもの聞く事すべて上の空、ひとつの事の対応だけの受け身な「パッシブな思考回路」から抜け出せなくなってしまったのである。経営も、そう、眼の前の問題処理だけでは、残るものは何もない。後追い経営になってしまう。きちんとした前向きの思考が出来なければリーダーシップは発揮できない。
過去のしがらみ、惰性に捉われない、常に一歩前に出た思考をするのが「プロアクティブな思考回路」、経営者には欠かせない。下手な過去のしがらみ、因果関係にとらわれない自由な柔軟な発想こそがリーダーには求められる。国のかたちを考え、行く末の成り立ちの方向性をきちんとしたかたちで示せてこそ国民の代表としての政治家の資質といっても言い過ぎでない。そう言えば何週間前の日曜日の朝のトーク番組、兄弟で別々の会社を興してそれぞれが成功している今話題のベンチャー企業の2人の社長の話は面白かった。「いつも考えている、考えていることが尽きる事がない。新しい事にいつも目を向けていく事が大事だ。極端な事を言えば身体を使った運動はしない、運動をしているときには考えることが抜けていってしまう。到達したような気分にまでなってしまう」。「プロアクティブな思考回路」は、次から次へと創造する精神を育んでいく。
「パッシブな思考回路」に落ち込んだこの数ヶ月、降りかかった火の粉を払うことだけに終始した。それでも何か仕事をしている気分になるから一層危険だ。ただ降りかかった事態の収拾だけだから蓄積されるものは終わってみれば何もない。おまけに後ろ向きの事態の収拾は、ストレスにまでなっていく。ストレスを回避するためにし続けたのが厳しい筋トレと毎日8qに及ぶウォーキング。ウォーキングハイだから何も考えない無の時間を過ごすことになる。お陰様で記憶力まで薄れていく。近い将来訪れるであろう老年、歳をとって受け容れるだけの生活の恐怖心が目の前をよぎっていく。パッシブな受身だけの生活は、新しいものを取り入れる引き出しまでなくしてしまう。ようやく受身の空白な季節が終わった。毎日決めたページ数だけの本を読んでいこう、煩わされずに思考する時間はどこにでもある、そして文章もしっかりと書いていこう。頭の中にいっぱいにして詰め込んだ考えは次から次へと浮かんでは消えていく。「パッシブな空白の季節」はもうやってこないはずだ。
(青柳 剛)
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