いきなり去年の春に入社したばかりの女子社員が出席したのが先週の社内の部門別の報告会と今後の方針の会議、この会議は社内でそれなりの経験と実績を積んだ人達だけの会議だった。いきなり一番若くてしかも女性の社員だから他の出席者は内心面食らったのかも知れない。若い女子社員の報告と考え方の発表は見ていてしっかりしていた。この一年間の負けず嫌いな性格と外に向かってやる気満々の雰囲気を見ていたから敢えてこの会議に参加する事を目論んだ。なんとなくだらだらしながら同じことの繰り返しの会議の報告を聞いていても何にもならない。到達した気分を拭い去るのが会議の一番の目的、いつも外に向かって眼を向けていなければならない。入ったばかりの社員でも女子社員でもやる気があればたった一年間でプロになる。
一年間で素人をプロにする!って頑張っているのが最近躍進しているビジネスホテル「東横イン」、決して好調でないホテル業界にあって急成長、好業績を続けている「東横イン」の経営術から学ぶものは多い。一度も泊まったことがないのに文章を書いていくのは気が引けるが「東横インの経営術」(西田憲正 日本評論社)は面白い、サブタイトルの「女性のセンスを生かして日本一のホテルチェーンを創る」は手にとって本を読んでみたくなる。都心でも宿泊料金の6000円台の割安感が人気の基本、6000円台を維持するために徹底的なコスト削減を行っている。宿泊室のフロアーの配置から始まって部屋の備品も全国統一規格にすることによってどこでも同じサービスを受けられる安心感のメリットもあるが、大量購入がコストダウンを支えている。ドアボーイもベルボーイも置かずに浮いたコストを朝食、新聞の無料サービスに振り替える。
ここまではどこにでもありそうな話だが「東横イン」が何よりも特徴的なのは、ホテル経営のすべてを女性に任した「女の会社」である事である。正社員660人のうち、男性は役員から運転手を含めて20人にも満たない。男は裏方に徹している。女性の眼ならば先ず見る視点が違う。「きれい好き」、「細かなところまで眼が届く」、「やさしさ」は女性ならではの視点、これが清潔で安心なホテルを支えることになる。例えば女性の眼から見れば確かにビジネスマンが泊まっても殆ど見ない客室のアダルトビデオなんかは先ずいらない。明るく健全な雰囲気が出ればビジネスマンだけでない家族連れや女性客も増えてくる。「東横イン」の客室稼働率は、平均で80パーセントを超え、年間を通せば100パーセントの店舗もあるとは驚異的な数字である。
入ったばかりの女子社員でも真っ白な気持ちで頑張ればたった一年間でもプロになる。下手なしがらみと枠組みを考えない分成長が早くなる。先週の社内の会議も出席者にとっては小さなさざなみの「きしみ」で過ぎ去ってしまうかも知れない。「東横イン」の成功話もホテルだったから出来たビジネスモデルと片付けてしまえばそれで終わってしまう。「東横イン」の女性支配人はホテル業の素人、業界の常識にとらわれないから何が求められているかの判断が新鮮で正しかった。レストランや宴会場の併設をしなかったのも、「ホテルとはかくあるべき」の概念のない素人だから出来た。先週の朝の会議、発表のために女子社員はきっと用意周到に準備してきた。同じことの繰り返しと思っていた会議に起きた新鮮な「きしみ」、忘れていた起業家精神を呼び覚ます。
(青柳 剛)
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