後追い戦略                                                 平成18年4月13日


 ビジネスの基本は真似をし続けること、真似をし続ける気持ちに経営者が貪欲であるかどうかにかかっている。ところが、たった一つの技術を持ったオンリーワン、そうでなければ誰にも負けないナンバーワン、こういったビジネスモデルを考えようとするから勘違いする。確かに小さな企業でも世界にひとつだけの技術を持ってシェアナンバーワンの企業は存在するし、身近なエリアでもそこで作り出す製品のシェアが国内の90パーセント近くになっている元気のある企業は思いつく。しかしながらオンリーワンはオンリーワン、2つがないからオンリーワンという。みんながオンリーワンにはなりきれないからオンリーワンの意味があるし、かといってなかなかオンリーワンのモデルは見つかりそうにない。みんなが見つけたらオンリーワンとは誰も言わない。地域ナンバーワンも難しい。いつ追い越されるか分らないのが地域ナンバーワンだし、所詮企業規模の背比べの結果としてのナンバーワンでしかない。

 「相手の出方を見てから自分の行動を決めたほうが有利な時もある」とは国際経済学者の伊藤元重東大教授の話、ヨットレースに例えた話は分りやすい。「ヨットレースも最終局面に来ており、前に出ている東大チームは後から追ってくる一橋チームをかなり引き離していた。このまま行けば、東大チームの勝利である。東大チームはコーナーの内側のコースを取っていた。後ろから追う一橋チームは一か八かでアウトのコースを取って追いかける事にした。その時風向きが変わり、アウトのコースを取る一橋チームが有利になって一気に東大チームを抜き去ってしまったのだ。後で東大チームは反省会を開いた。そして、インのコースを取ったのが間違いであったという結論に達した。あのとき東大チームは一橋チームに大分差をつけていた。一橋チームがアウトのコースを選んだ時、東大チームも同じようにアウトのコースを選ぶべきだったのである。一橋チームと同じコースを取れば、どんな方向の風になっても条件は一橋チームと同じである。一橋チームとの差が縮まることはない。そうすれば絶対に試合に勝ったはずなのである。」(「ビジネスエコノミクス」)

 ビジネスの世界でなくても芸術の分野、例えば建築のデザインでさえ基本は真似、真似から始まり真似に終わる。意識するか意識下にあるかは別にしてデザインのエレメントは自分がそれまでにつくりあげてきた引き出しから取り出され、組み合わされる。引き出しの多さは建築を見、体験したりした量に比例する。建築雑誌を数多く見るのも良いし、スケッチを繰り返すのも良い。そして、どんな建築作品も必ず設計をした建築家のコンセプトがある。コンセプトを読み取り、自分の言葉に置き換えてみる。こんな事の繰り返しで引き出しはどんどんつくりあげられてくる。後は引き出しから出てくるデザインの組み合わせが如何に上手に出来るかにかかってくるし、言葉は一緒になって付いてくる。芸術の分野でさえ基本は真似、真似から始まり真似に終わる。必ずどこかで誰かが似たような考えとデザインをもうやってあるという気持ちが大切だ。

 ビジネスの基本は真似をし続けること、真似をし続ける気持ちに経営者が貪欲であるかどうかにかかっている。役に立ちそうなビジネスモデルを常に真似をしながら取り込んでいく姿勢が経営者に求められる。そう言えば世界に名だたる企業になったトヨタ自動車をはじめ松下電器が「マネシタ電器」と揶揄された話が示唆するものは大きい。他社が出した画期的な製品と同じような製品を後から出して成功をかっさらってしまうといわれてきた。勿論世界に名だたる企業だから他社を圧倒するような画期的な製品を打ち出す技術力と販売力を持っている訳だが、それに加えて他社の良い所を貪欲に真似ていつの間にか追い越していく「後追い戦略」の強みを発揮しながら成長してきた過程に他ならない。ビジネスに限らずどんな分野でも基本は真似をし続けること、後は真似を出来る技術にしっかり裏打ちされていればきっと先が見えてくる。



                                          (青柳 剛)

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