□ 酒は文化である                                                平成19年6月25日


 日本酒は勿論だが酒全般、アルコールの消費量は減り続けているという。酒を飲まなくなるのではなくて、何かがあったときにしか酒を飲まない。毎日酒を飲むという習慣の人が減り続けている。一日の終わりの区切りとして酒を飲むこともしない、酒を飲みながら議論をかわすこともお洒落でない、もちろん、憂さ晴らしに酒に頼ることもしない。酒が生活の一部にならないから消費量は増えないのである。最近は、消費量が増えないもっと大きな原因は若い人の間のパソコンと携帯電話だという。確かに酒を飲んでパソコンに向かってもキーボードが打てない、携帯からのメールも手付きが怪しくなる。ゲームはもっと難しい。焼酎がブームだといってもアルコール消費量は、この先伸びていく気配はない。

 先日も知り合いの蔵元の若い社長が言っていた。日本酒の消費量が伸びていきそうにないから、全国の出荷量の少ない醸造元の経営は大変だという。赤字経営か、それこそすれすれのところで経営をしながら醸造元は頑張っている。それに加えて、来年3月末に適用期限になる租税特別措置法87条に基づく中小酒造業者に対する酒税軽減措置(租特措置)が今年で撤廃になるかもしれないという。全国の一定量以下の日本酒の出荷量の醸造元に対する酒税軽減措置だ。もしそうなったら日本酒の醸造元に与える影響は計り知れない。酒税軽減措置の部分で何とか経営を保ってきた地方の醸造元がいなくなってしまう事態まで想定されてくる。中小企業対策、地場産業対策、米作農業対策、ひいては国酒としての清酒の位置づけをしっかり考えなくてはならない。

 日本酒の次はビールの話だが、曇るほど冷えたグラスに細かく泡が立った苦いビールの味は美味い。夏の今頃には最高だ。今年はキリン・ザ・ゴールドの隠し苦味の品のよさが、アサヒスーパードライの出荷量を抜いている。アサヒスーパードライも取れたてホップの出荷期日を表示したりして必死に巻き返しを図っている。どちらもホップの苦さがなんともいえない。ビールは地ビールが出来ても全国規模のこういったビールのシェア争いにはかなわない。廻りにもいくつか地ビールが出来たが毎日飲むのには全国シェアのビール、地ビールにはなかなか手が出ない。おそらく地ビールの歴史の浅さがそうさせる。どちらかといえば、地ビールはデザート感覚で楽しむ「スイーツビール」に変わり出したのである。先日の恵比寿、「ジャパン・ビア・フェスティバル2007in東京」にガーデンホールを取り巻いても足りないぐらい行列が出来ていたのは、120種類以上の地ビール飲み放題ということもあったがチョコ味・蜂蜜味・カクテル感覚を楽しめる人達であふれたのである。

 焼酎は南、日本酒は北、ビールは全国、勝手にそう思い込んでいる。そんななかでも地酒をその地に出かけて味わうのが一番だ。取り寄せて飲むのとは一味違う。身近なところでは群馬の超辛口の「谷川岳」、隣の新潟県に行けば「八海山」とか「久保田」が有名だがそれより小さな酒蔵の「巻機」がいい、山形なら「大山」、福島は「大七」、宮城は松島の「浦霞」、秋田に行けば「高清水」を始めどんな酒を飲んでも間違いがない、金沢は山廃純米超辛口の「加賀鳶」・・・、挙げていけばきりがない。充分楽しめる。そういえばいつの間にか日本酒は全国規模の酒を飲まなくなった。地酒でなければ日本酒でないような感覚になっている。それでも、酒全般、アルコールの消費量は減り続け、特に地酒の蔵元は厳しくなっていきそうだ。全国各地で頑張っている地方の醸造元がますますダメージを受けそうな政策が酒税軽減措置、地方に根付いて長い伝統を守り続けてきた蔵元こそ守らなければならない。そこにはビジネスだけで割り切れない世界がある。酒は日本の文化、もう少し言えば、地方の文化である。

                                          (青柳 剛)

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