生まれついたときから頭がでかい、と書き出したが、ふと考えてみれば生まれたてのときはみんな頭がでかいのである。「エビちゃん」こと「蛯原友里」だって、「オリオン座からの招待状」の「宮沢りえ」だって、結婚したての「神田うの」だって、顰蹙をかった記者会見をした「沢尻エリカ」だって、いつかのプロ野球の始球式でユニホームから胸がはじけそうだった「ほしのあき」だって、目黒の駅前を歩いていた日本人肌荒れ発言の「ユンソナ」だって・・・、生まれたてのときは頭が大きかった。すべて大作りの「藤原紀香」だって身体全体から見れば頭が小さいが、生まれついたときはもっと頭が大きかった。全体的にすべて小作りの「安達祐美」でさえ大きかった。毎日毎日見ている女子アナもみんなきっとそうだったろうと思いながらテレビを見ている。違ってきたのはその後の成長の仕方が違う、成長と共に頭以外のところが伸びてくるから結果として頭が小さく、小顔になったとずーっと思っていた。
小学生の低学年のころから「でかい頭」を意識しだした。背の高さは真ん中辺より少し高いほうだが、「気をつけ!前にならえ!」の号令と共に並んでみれば、頭が一回りみんなより大きかった。そのうちいつかはみんなと同じになるのかと思っていたが、背が伸びる量に比例してそのまま頭もでかくなった。いや、頭の大きくなる割合の方が多かった。小学生も高学年になると、もう、気楽に野球帽は好きなものを選ぶことは出来なくなった。柳屋のポマード臭い父親の帽子でもブカブカなんてことはなかった。高校生になると商店街の角にあった帽子屋に行って寸法を測ってもらいながら学生帽をつくり、特注品を誂えるまでになっていた。このころでようやく頭の成長が止まったような気がするが、身長の伸びも同じように止まってしまったから、見た目も見事に「でかい頭」の人間が出来上がってしまった。この間の夜、鏡を見ながら改めて巻尺で計ってみたら59.5cmある、歳をとってもやはり「でかい頭」は縮んでいなかった。
それでもこの間、横になりながら浅田次郎の本を読んでいたら、浅田次郎の「でかい頭」は62cmもあると書いてある。59.5cmより2.5cmも大きい、これはもう「でかい頭」とは言わない、「巨頭」という。偉い人のことを頭の大きさに関係なく「巨頭」というが、この場合は違う。おまけにハゲている。毛が生えていれば頭のボリュームが大きくなって一層「巨頭」が強調されそうだが、毛がなければ「巨頭」が光ってかえって目立つ、もっと具合が悪い。余程「巨頭」のことが気になる人生を送ってきたのか、自分の「巨頭」を題材に三つもエッセイを書いている。自衛隊に入隊したときの話はほんとに笑える。「私の巨頭に最大の試練が課せられたのは、自衛隊入営に際してであった。自衛官は常に帽子をかぶらなければならない。制帽、作業帽、ヘルメット、鉄帽、運動帽、その他特殊なかぶりものがいろいろある。(中略)扉を開けて私が直立不動の姿勢をとったとき、事務所にはドッと爆笑が起こった。ダブダブの作業服を着た新隊員の頭に、正月のおそなえ餅のごときヘルメットが乗っているのである。・・・」(勇気凛々ルリの色、232−233頁)。きっと想像するに、昔流行った山上たつひこの「がきでか」、「こまわり君」状態だったと思うと笑いもこみ上がってくる。
最近は帽子の後ろにサイズを調整するジッパーが付いているから、帽子の大きさも気にしないで済む。S、M、Lとか何インチの寸法だとか、気にすることなく帽子を手にすることが出来る。それでも、59.5cmの頭の大きさは、ジッパーの伸びを最大に伸ばして丁度いい。工事現場のヘルメットもそうだ。ということは62cmにもなればジッパーを最大に伸ばしても足りない。ジッパーを外して被らなければならないのか?それどころかヘルメットは内側のクッション材まで全部取らなければ頭が入らないのか?と気の毒に思いながら想像する。「巨頭」が気になる人生もよく分かる。ところで、外国人特に欧米人は身長も大きいから頭もでかい、帽子も日本人にはブカブカ、「でかい頭」の自分には丁度いい大きさの帽子がたくさんある、絵柄も自由、欧米に行ったら好きに選べる帽子を買おうと思って出かけたら見事にそんな思いは外れた。S、Mの大きさの帽子はもちろん被れない、Lの帽子でさえきつい。ほかの衣類はLなんか買えばとんでもないことになるのに。それこそ靴下はどれをとってもブカブカ、さすがに欧米人の足はガリバーの足だった。要は、頭の大きさは身長とは関係なかったのである。帽子だけは日本人のサイズのS、М、Lとまったく同じだった。背の大きさに関係ない?頭以外のところが成長するにつれ伸びた?生まれついたときはみんな頭が大きかった?・・・そうじゃなくて生まれついたときから「エビちゃんだって、りえちゃんだって、うのちゃんだって、・・・」みんな頭が小さかったのである。生まれついたときからでかい頭、そのまま一生でかい頭、これがきっと正しいとようやく気づく、変えようもないのが「でかい頭」である。
(青柳 剛)
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