□ 極上の耳そうじ                                                                    平成19年12月17日


 前にも書いたが、理髪店は東京の銀座、もう通い始めて18年経った。理髪店は、通いだすと同じ理髪店をなかなか変えられない。それでも、銀座の理髪店に通いだす前は知らないところに出かけたときに、空いた時間を見つけては必ず理髪店に寄っていた。特に洒落た理髪店を見つけると、どうしても髪の毛を切ってもらいたくなって入っていた。もちろんさっぱり感が良くて入るのであるが、のんびり感は理髪店でこそ味わえる。後は見知らぬ地での散髪という違和感も良かった。髪型も長髪気味だったから、少しぐらいカットの仕方が違ってもすぐに直すことが出来た。近所の理髪店に通い続けることも日常の生活パターンのひとつが理髪店の散髪と考えればあり得るが、東京銀座の理髪店、最初に入って髪を切ったときの爽快感が忘れられなくて18年もわざわざ通うことになったのである。

 今考えればあの18年前の爽快感は、大学病院に入院しているときに外出許可を貰って出かけたときの散髪だったから特別の爽快感を味わえた結果だった。回復に向かい、シャワーも浴びられなかった身体には心地よかった。その感覚が引き続いているということになる訳だ。その銀座の理髪店を2年前に変えた。正確には本店である銀座の理髪店から同じ系列の店に変わったというのが正しい。翌日のお台場での結婚式のために前の日の夕方、「散髪を」と思って出かけたらものすごく混んでいた。伸びきった髪形で結婚式に出るわけには行かない。予約をしておけばよかったが、結婚式の前の晩の新橋での前夜祭も控えていた。あきらめの気持ちも先立ちながら「どうにもならないかあ」と思いながらも閃いたのが同じ系列の店を紹介してもらうことだった。歩いて10分ぐらいのところにあるという。早速、今度は店からきっちりと予約を入れてもらって、前夜祭にも、もちろん結婚式にも間に合った。

 変わった理髪店、本店があっての支店といっても雰囲気はかなり違う。働いている人の年齢はかなり若い。店長はどう見ても30歳代だ。若いから、店の雰囲気はてきぱきしている。掛け声が出そうな雰囲気まである。かかっている音楽まで違う。それに較べて本店は、立ち居振る舞いからして大人の雰囲気だった。16年間かかりつけてきた人と違う人に散髪をして貰うからどんな髪形になるのか不安はあったが、そこは同じ系列の店と若い店長の飲み込みの速さで今までと変わらない髪形が出来上がった。それ以来新しい店に通いだした。あまり混んでいないのもいい、もっといいのは確実にこちらの要望通りの時間にすべてが終わることだ。最初にどのくらいの時間があるのかを聞かれ、その通りの時間に仕上がる。のんびりしたいときはフェイシャルマッサージまでかかり、時間がないときはあっという間に仕上げてくれるのが良い。結婚式の夕方以来、ずーっと店を変えたままになっている。

 18年間通っている銀座の理髪店、散髪料も高そうだと思う人もいるかもしれないが、普通の散髪、髭剃りまでなら他の理髪店とそんなに変わらない。4,200円で仕上がる。毎月の散髪にそんなに金をかける人はいないから、高くすればお客はいなくなってしまう。ところで、新しい店の人に聞いたのだが本店で16年間も担当してくれた人の年齢、70歳を超えているということには驚いた。白いバンドカラーのシャツに黒いズボン、見た目はそうは見えなかったから驚く。そういえば散髪の最後の仕上げをいつまで経っても終わらせることが出来なくなっていた。鋏を終わりにすることが出来ない、ここまでという踏ん切りが出来なくなっていた。今の店の若い人は、ここが違っている、あっという間にキリをつけることが出来るのである。誰もがかかる毎月一度ぐらいの割合の理髪店、散髪をした後は気持ちが良い。最近は価格もリーズナブル、かかる時間の長さもメニューも自由に頼める理髪店があちこちに出来だした。それでも理髪店ぐらいはのんびりゆっくりしたい気持ちが捨てがたい。今年はあと一回銀座の理髪店、一年の仕舞い際、しっかりフルコースの上に新メニュー、耳のマッサージまである「極上の耳そうじ」でも頼もうかと思っている。

 


                                          (青柳 剛)

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