「ノミのジャンプ」と「廻る聴診器」                                                         平成20年1月7日


 去年は年頭の挨拶で「卒啄同機」の考え方を引用しながら話をしたことを思い出す。時代の変化と共に変わらなければならない、いつも変わろうと努力をしていなければならない、変わろうとしても簡単には変われない、そんなことを話の要旨として繰り返した。そして、変わるためにはトップが変わろうとする気持ちはもちろんだが、組織の内部からも変わろうとする気持ちが高まったときに組織全体が変わりだす。内と外が一体にならなければ変わらない。卵の殻を破って雛が誕生するときは、親鳥が殻をつつき、殻の中の雛が内側からつついて殻が割れて雛が誕生する。どちらか一方ではなかなか雛は誕生しない、まさに「卒啄同機」の状況になった時に殻が割れて新しい命が誕生するのである。この辺の要旨で去年の年頭の挨拶が始まったが、今年は少しずつ状況も変わりだしたような気もする。改革し続けることは大事なことだが、もう少し今の状況をしっかりと深く掘り下げながら取り組んでいかなければならない年になりそうだ。

 暮れの早朝会議で職員が朗読した文章は面白かった。「ノミのジャンプ」の話である。コップに蓋をした状態に置いておくと、中で跳ねるノミは、蓋にぶつかったりしながら、もちろん蓋より上に跳ねないわけだが、しばらくそのままの状態にしておくと、蓋を外してもノミは蓋のあった状態より上には跳ねなくなってしまうという。この「ノミのジャンプ」の話から学び取るものは多い。身近に見回せば「ノミのジャンプ」状態になっている例はたくさん当てはまる。組織の中に入りたての頃は、チャレンジ精神が旺盛だからどんなことにも新鮮な気持ちで向き合っていくがいつの間にかチャレンジ精神が失われていってしまう。自分の領域をつくり、それ以上に出なくなってしまうから跳ねる領域が決まってしまう。今やっていることの蓋をつくらないこと、常に最大限に跳ね続けることの大切さと、そこから生まれてくる可能性にチャレンジし続けることを「ノミのジャンプ」の話から学習する。

 もうひとつの面白い話も暮れ、住宅のオープンハウスの会場で聞いた。人手が急に足りなくなったのでオープンハウス、完成見学会の手伝いに参加した。寒風吹きすさぶ見学会だったが、見学者は休む間もないぐらいに多かった。アンケートを取ったり、相手をすることも出来ないで帰ってしまう見学者が出てきたので、急遽手伝うことになった。その中で8人揃ってやってきたのが、会場となりの医院の看護師の人達だった。医院の昼休みにやってきたのである。そんなに大きくもない医院に8人も看護師の人がいたことに先ず驚いた。そういえば、工事中から気になっていたのだが、いつも患者の数が多い、止まっている車の数がとんでもなく多い、人気のある医院だなと思っていた。人気の理由を聞いてみると、患者の側に立った診察を先生がしてくれるのだという。例えば、患者を最初に診る聴診器、胸に当てた後背中に聴診器を当てて患者の状態を診るのが普通だが、その医院の先生は背中に当てる聴診器を自分で動きながら廻って診るのだという。患者が廻って背中を診せなくていい。じーっとしてて良いのは医者の先生ではなく、調子の悪い患者の方なのである。すべてに亘って、患者の側に立った診察をしてくれるから、引きもきらずに患者が数多くやってくる人気の医院になっているのである。

 時代の空気は少しずつだが変わりだした。去年の年頭に頭の中を占めていた「卒啄同機」の考えも、企業経営を続けていくうえにはもちろん欠かせないが、行き過ぎると新しいこと、改革にばかり気持ちがいってしまう。前に向く気持ちは大事だが、新ビジネスはそう簡単には生まれない。今やっている本業の意味をしっかり見つめ、深く掘り下げなければならない。疲弊して、疲れきって、諦めの蓋をつくり続けて来なかっただろうか?同じことの繰り返しの中で同じことがまたやってくるといつの間にか思い込んでいる蓋は出来ていないだろうか?組織の内にのみ眼がいっていないだろうか?・・・「ノミのジャンプ」状態は沢山ある。そして患者の側に立った「廻る聴診器」の先生が教えてくれるビジネスにつながりそうなそれこそ本物のホスピタリティーの意味、弱った患者を診てやるんだという今までの医者と患者の関係からの転換である。ビジネスの原点は商品力と営業力の組み合わせ、今年はしっかり落ち着いて本業を見つめながら蓋を外してジャンプ、新しいことはその中から見出だすことが出来る。
                                          (青柳 剛)

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