□ 少しだけ良い同じこと                                                                          平成20年1月14日


 大晦日は、金沢の西茶屋街近くの野町の蕎麦屋で年越し蕎麦、前の年もものすごく混んでいたが今年も混んでいた。席が空くのを行列で待っていた。見ていると容量オーバーもあるが、サービスの人に年配者が多くて要領よく捌けないから混みあっている。去年は、ぶ厚い漫画本を読みながら一人で蕎麦を食べていたオバサンが、どこかそこだけ空気が違っていて変だった。今年は若い女の人のグループが気になった、金属製の棒のようなものを出して背中にかざしている。このグループもなんだか分からなかったが、「いろいろな人がいる!?」と人混みの中にいるといつもそう思う。そして、一ヵ月半ぶりぐらいに、昼間の酒・黒帯を少しだけ飲んだ。夜は去年と同じ、片町の店で焼きガニを食べて一年の締めくくりにした。元旦は、行列をしながら初詣でと新春映画の「椿三十郎」を観た。去年はアメリカの嫌煙運動の映画・「サンキュー・スモーキング」、つまらなくて殆ど寝てしまうほどのアメリカ的な映画だった。今年は娯楽映画なら眠くならないと思って「椿三十郎」にした、・・・暮れから正月をなぞりながら書いていくと毎年同じことをしているような気がする、同じことをしないと何か落ち着かないような気がするから、きっと似たような同じことをしているのである。

 今年も又同じことをしないと新しい年が始まった気にならない、そう思って出かける同じことのひとつが国立競技場の大学ラグビー決勝戦だった。39年ぶりの早慶対決の決勝戦だという。去年の関東学院大との苦い思いがあるから、見に行く気があまりしなかったが、当日が近づくにつれて「行かなければ!」という観戦義務感のようなものが沸いてきた。毎年チケットを苦労して取ってくれる東京在住の女友達の気持ちを無駄にしてはいけない!準決勝の勝ち方はそれほどでもなかったがそれまでの勝ち方からすると今年こそは早稲田大優勝の場面を眼の前で見ることができる!一昨年は見に行かなかったら清宮ラグビーの総決算の優勝した場面を見逃してしまった!・・・いろいろ考えると見に行かないわけにはいかなくなって出かける準備を始めた。天気予報によれば当日はかなり寒くて雨まで降りそう、膝下までのベンチコートも手に入れた。濡れた椅子を拭くタオルと何かの役に立つであろうビニールに雨合羽、それに手袋とホカロン、後は実況を聞くAMラジオ、ひとまとめに防水ビニール袋に入れて準備は整った。

 当日は予報どおりの天気になった。千駄ヶ谷駅から歩くだけで雨と冷たい風が頬にあたる、しっかり準備してきた甲斐があった。席も屋根が丁度途切れるところだったからビニールが何かと役に立つ。今年は悪天候もあって友達を誘わず一人で観戦、もちろん仲間と一緒も楽しいが、一人の観戦もいい、ゲームに集中して観戦できる。トライになれば素直に感激できるし、ゴールライン際の攻防に手に汗を握ることも出来る。試合の流れは終始早稲田大優勢、後半に入っても流れは変わらず早稲田大が26対6で勝ち、優勝した。早稲田大の勝因は、フォワードの平均体重が10キロも上回る、五郎丸の足が復活した、中竹監督の全員ラグビーが二年目に答えを出した、いろいろ言われるが総合力で上回った順当な結果だった。それでも、慶応大の足元に食らいつくタックルは良かった。トライは奪えなかったが、冷たい雨の中、攻めの姿勢を忘れずに戦ったことが印象に残る。11月23日の早慶戦の結果を考えれば、対戦を重ねるごとにジリジリと力をつけて善戦をした結果だった。それにしても、ようやく眼の前で早稲田大の優勝シーンを見ることができた、感激である。

 観戦に行くことを躊躇っていた同じことのひとつの大学ラグビー決勝戦、寒かったが出かけて良かった。やはり、躊躇いはあっても、結局暮れから正月にかけて同じようなことをしている。金沢では、元旦の夜は洋食とワイン、去年もそうだった。2日に金沢の海を見に出かけて海辺の寿司屋に入ったことだけが去年と少し違っていた。後は予想外の健闘をした箱根駅伝を見終わると翌日は仕事始め、去年と同じようなところを年始の挨拶に廻りだす。そして、その翌週が気になっていたラグビー観戦、同じことを同じ時期にやらないと何かやり足りないような気持ちになってしまう。同じことをしないと落ち着かない。よく考えてみれば、同じことが出来ることは良いこと、何かがあれば同じことは出来ない、そう思えば同じことをする意味も出てくる。そして、見方を変えて、時折降る雪も去年と違って金沢らしかった、蕎麦屋の待ち時間が少しだけ今年は短かった、久しぶりに飲む酒と片町の焼きガニは去年より美味かった、「椿三十郎」は眠くならなかった・・・、同じことと思っていても少しだけでも良い事を見つければ心地いい。ましてや、同じことのラグビー観戦でも早稲田大の優勝シーンを眼の前で見ることができれば幸せ気分で一杯になるのである。

                                          (青柳 剛)

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