何を考え違いをするのか「ものつくり」の世界、特に全国で50万社もある建設産業で短期戦略だけを考える人達が出てくるからおかしくなる。短期戦略が眼を向けるのは金額の世界、金の力でマーケットのシェアを拡大してそのうち寡占化されたら長期戦略、とイメージをするから間違える。調達の仕組みとつくり方にウエットな部分がどんどんそぎ落とされるからそういった戦略を立てることになるのだが、企業のあり方の基本は長期戦略なのである。もちろんゼロからスタートして一品一品作り上げていく世界に金額だけの尺度はあり得ない。「いいものをつくる」というマインドが消えたら、企業の戦略は立てようがない、経営目標がなくなってしまう。単なる数値目標の繰り返しになってしまうということだ。
金額だけの数値目標といえば、時価総額日本一といい続けながら不祥事となって頓挫した若手経営者の例は記憶に新しい。最近気になったのが3月の半ばから5日連続紙面の一面に遅配のお詫び広告が載っていたのは毎日新聞、どうしたのかと思っていたら配送業者がそっくり入れ替わったのだという。新聞の原点、いくらインターネットの社会になったといっても生命線は新聞の速報性、その速報性が遅配になってしまっては根幹から揺らいでしまう。厳しい経営状態といわれる毎日新聞のコスト削減のひとつが輸送体制の見直しの競争入札だったが、初めての配送業者による不慣れな配送業務による連日の遅配は命取り、価格だけの見直し方が問われる例である。そして、建設関連の業界紙を読んでいれば低価格入札対策の関連記事を眼にしないことはない、連日価格破壊の特集記事が組まれている。そこから読み取れるのは金額だけの数値目標、それぞれの企業の短期戦略だけが浮き彫りにされている。 長期戦略の例を挙げればいろいろ挙げられるが、岡山の(株)林原の戦略は面白い。明治16年、水飴の製造会社からスタートし、デンプンから安価な夢の糖質、トレハロースを作り出したことで有名だが、会社の歴史を調べてみれば決して順風満帆の歩みだけではなかった。創業以来、日本一の水飴工場として成長拡大の道を歩んできたが大きな転換期は昭和30年代、砂糖に代わる新しい甘味料の量産化の時期だった。多数の企業の参加により供給過剰となり市場は低迷、3代目社長の急死も重なり最大の難局がそこに待ち受けていた。後を受け継いだ19歳の新社長の戦略は、コストダウンと量産化をめざすメーカーではなく、独創的な研究開発型の企業へ向けた戦略である。それも、すぐに明日に結果が出る研究ではなく基礎研究に重点を置いたのである。地道な基礎研究の中から新技術、発明が次々と生まれ成功への道筋が出来上がったのである。
(株)林原の社長の「オーナー社長だからこそ出来ることがある」との指摘は当たっている。社長を何期か務めたら終わりという社長には長期戦略の絵は描きにくい。テレビで見ていたらビジネスにはそれこそ関係ないような刀鍛冶職人まで林原研究所にはいるという。「刀剣をつくりながらも何か発見はあるはずだ」とも言っていた。そうはいっても、長期戦略だけではなかなか結果は出てこないことだけは確かだ。一日ごとの結果の積み重ねが大事だし、上場企業は四半期ごとに決算を公表しながら年間の決算が出来上がってくる。短期戦略を確実に実行しながら長期戦略を描いていく、長期戦略の目指すものは企業の存在価値と目標、そして、一緒になって付いてくるのが数値目標の結果なのである。勘違いしそうな最近の経済情勢だが、長期戦略の視野を見失えば組織はやがて崩れていく。
(青柳 剛)
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