県庁の中を廊下トンビしていたら、バッタリ、知り合いの営業マンに出会った。2〜3ヶ月会っていなかったので久しぶり、話をしたいこともある、「少し話をしようや!ちょっと待ってて!」と言いながら、ぐるりと回って、用を済ませて一緒に向かった先は昭和4年に竣工した旧庁舎の喫茶店、ここはレトロな感じがいい、天井も高いし、コーヒーも旨い、たまにやってくる。「あれえ?ケーキなんか食べるんですかあ?」、甘いもの大好き、特にふんわりしたショートケーキが大の好物だということをこの営業マンは知らなかった。頼んだのは、もちろん、ケーキセット、男2人でケーキを食べている姿は絵になるんだかどうだか、「うまい!うまい!」の舌鼓を打ちながら、しばらくぶりの打ち合わせが終わった。
それから2週間も経っただろうか、会社の玄関に紙袋を下げてその営業マンが立っている。「どうした?今日は何?」と聞いたら、紙袋を差し出す。「千葉の行列の出来るケーキ屋のロールケーキです。食べてみてください。ようやく買えました」、そういえば県庁の喫茶店で「そんなにケーキが好きならば、是非、地元千葉のロールケーキを食べてみてください。味はすごいです。今度持って行きますよ!」と言っていた事を思い出した。なるほど早速食べてみると旨い、ケーキはもちろんふんわり感でいっぱいだし、クリームもお洒落な味がする。なかなか買えない極上のロールケーキとはこのことをいう。それよりも朝、店が開くまで行列に並び、その足で電車を乗り継いでやってきたことに感激する。まだ一年半ぐらいの付き合いにしかなっていないが、相手の気持ちが分かるさりげない付き合い方をする営業マンに感心する。
友人が東京で秋に表彰された。この道一筋で表彰だから価値も高い。夫妻そろっての表彰式、前の晩から東京駅のそばのホテルに宿泊して表彰式に参加したという。ところで、ロールケーキの営業マンを最初に紹介したのが表彰された友人だったのである。表彰式が終わってしばらくしてから、ロールケーキの営業マンに「表彰のお祝いに何かした?」と聞いてみると、「表彰式の前の晩、ホテルの部屋にシャンパンとお祝いの花を届けましたよ」それに「表彰式に出かけるのを見送りました」と言う。普通ならばお祝い電報でも打って、お祝いの品を届けることで済ませてしまう。ロールケーキもそうだが、友人の表彰の対応といい、どうもこの営業マンはまだ一年半ぐらいの付き合いだが、やっていることが違う、派手になることなく丁寧さが違うとこの頃から気づきだしたのである。
表彰式のエピソード、これだけで終わらない、もっと驚いたことがある、こういったお祝い等のお金の支出のことである。聞いてみると、毎月自分の小遣いから2000円なり3000円を積み立て、それを使っているということだった、これには驚いた。「友人の、お世話になっている人の晴れの表彰だから会社に言えば、もちろん、お金の支出はしてくれます。それでは心がこもらないじゃあないですかあ、自分の積み立ててきたお金を使って贈り物をすれば、先ず自分が納得できるんです!」、確かに会社のお金を使った贈り物ではただ届けるだけの形式的なお祝いになってしまう。自分の心で納得しながらお祝いをするなんて、それこそ心憎い気配りである。少しずつ積み立ててきた時間の重さは消えていかない。相手のことをどれだけ考えてきたかが目に見えない「やさしさ」となってどこかに滲み出る。まだ付き合いが始まったばかりだが、この「やさしい営業」マンとの付き合い、深く長くなりそうな気がする。(青柳 剛)
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