吸う空気を変えるつもりで出かけた函館行きだったが、現実は行っている間中、気分が入れ替わったわけではない。急に気分転換は難しい、相変わらず今の生活を引きずった函館行きだった。平日ということもあったのだが、行きの新幹線の中から途絶えることなくメールは届くし、歩いているときもひっきりなしに電話がかかってくる。その都度メールは返さなければならないし、判断しながら電話に応えなければならない。あっという間に電池切れになりそうになる。携帯電話を持たないで出かければいいのだが、そこまですっきりした気分には、なかなかなれない。この辺の中途半端な気分があるから、いざと言うときは、何とかして帰ってくることが出来そうなところばかりに出かけているのである。そのうちのひとつの電話が、ホテルの部屋で夕飯を何にしようか考えているときに、地元のマスコミからかかってきた電話だった。
「今日、民間の信用調査機関の発表があったんですが、正月から6月までの上半期で過去3番目に多い企業倒産件数です。その数は126社で、昨年よりも5割増になっています。そのうち建設業が最多の34件になっています。このあたりの状況についてどう思われますか?原因はどういうことなんですかねえ?・・・」、のんびり気分でいるときに、いきなりこんなことで「コメントを!」と言われてもすぐに答えは浮かんでこない。それよりも「最近は政府の度重なる緊急経済対策でかなり業況はよくなってきたんじゃなかったんか?」との逆の思いのほうが強かった。去年の暮れと年明け、それに新年度予算とその後の立て続けの補正予算の組み立て、業界は久しぶりに前向きの風が吹いていた。落ち込んできた後の景気対策だから即効性の効果も出なければいけないが、疲弊した後の業界の対応がうまく出来るかどうか、そのことばかりに頭の中がいっぱいだったから、原因を考え、コメントするまでにしばらく時間がかかったのである。
よく考えてみれば当たり前の事、去年の秋の世界中で起きた金融経済危機が表面化すると同時に景気は一気に失速し、それに伴って建設業の破綻も増えたのである。増えてきた公共投資に眼が行っているから、すぐに気づかなかっただけである。建設投資の総量は、もちろん民需が過半を占めている。その民需の工事が去年の秋から急にストップしだした影響は、たちどころにマイナス効果となって現れた。マンション需要の減速はもちろんのこと、製造業などの設備投資が軒並みストップしてしまうことによって、予定していた工事もいつ着工できるかどうか分からない状況が各地で起きていたのである。その直撃をまともに受けたのが民需中心の企業、何とかシェアを維持しようと思って頑張る滅茶苦茶なダンピング受注、いい結果をもたらす筈もない。結局、それに連なる関連企業の倒産件数が昨年よりも5割増となったのである。
翌日の地元紙をネットで見てみると、概ねコメントした通りに1面トップ記事として載っていた。もっと深読みすれば、「度重なる緊急経済対策がなければもっと経営破たんした建設業の数は増えていた、それも公共投資を中心に経営をしていた建設会社がバタバタと倒れていた、その数は倍以上の数を押し上げ、昨年よりも倒産5割増どころか過去最高の倒産数になっていたかもしれない!」と分析をすることが正しい。もともと平成10年ぐらいから極端に落ち込んできた建設業界、体力低下に追い打ちをかけた昨年秋口の世界的な構造不況、製造業も今年の夏の賞与は過去最大の下げ幅といわれ簡単には立ち直れそうもない。1992年バブルが弾け、政治の不安定がそれに拍車をかけた、期待するのは政治に翻弄されない建設業界のあり方、「V字回復」、「U字回復」は望むべくもないがせめてギリギリのところで「L字回復」で落ち着いてくれれば・・・。(青柳 剛)
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