□ 中堅・中小建設業の成長戦略                                               平成21年10月20日


 政権が変わると同時に今までの政策も大きく変わりだした。この1ヵ月半の変わりようは凄まじい。公共投資のありようは選挙期間中もある程度想像は出来ていたが、ここまで変わってくると回りから聞こえてくる戸惑いの声は日増しに増すばかりである。変化に耐えにくい業界こそが建設業界、その業界が8月の30日を境に一番変わりそうな気配になっているのだから厳しいものがある。かといって、後戻り論をいつまで展開していても状況は前には進まない、公共投資のあり方、地域の建設業の果たす役割、地域に貢献してきた建設業はどういった人たちだったかを真正面から見据えて考え発信するにはいい機会だと考え方を変えることから議論はスタートする。ビジネスの論理を乗り越え、中堅、中小建設業が地域に果たしてきた役割は大きい。

 先日、2010年度予算の概算要求が発表された。95兆円を超えた規模の概算要求となっているが、公共事業費の削減幅は過去最高だ。14%超の削減だが、廃止される直轄事業負担金の維持管理費分を差し引くと実質17%の削減率になる。相変わらず民間設備投資が低迷を続け、一向に回復の兆しを見せない中での公共事業費17%もの削減は建設市場にとんでもない影響が出てくる。特に新規の道路事業・ダム事業・官庁営繕など、大規模事業から地方事業まで削減されていくダメージは大きい。地方自治体も削減せざるをえない。こういった激変する状況に対する対応策として、マニフェストでは資金調達を含め民間事業者に委託するPFI制度の積極的な促進が挙げられ、加えて、先日は建設会社の海外展開を促進する政策が発表されていた。そして、地方建設業の農業・福祉分野などの異業種への事業転換と建設業者同士の協業化への促進も謳われている。

 平成10年をピークに建設投資の削減が行われ、いつの間にかピーク時の半分以下の投資量に落ち込んだ。実感として疲弊度はギリギリまで来ている。消えていった仲間の数は多い。そんな中でも、地方を代表する中堅・中小建設業の破綻が目に付いた。各所でエアーポケットが抜けるように地方を代表する企業がいなくなってしまった。地方の成り立ちを支えているのは網の目のように張り巡らされた建設業のネットワーク、ここが抜けていけばあっという間に地方は崩壊していってしまう。もちろん、雇用の下支えということもあるが、除雪・災害時などの復旧に地域の建設業の果たす役割は欠かすことが出来ない歴史がある。豪雪も台風地震災害も被災にあったことをすぐに忘れてしまうが、忘れてならないのは人材、保有機材を抱え、それぞれの地域を代表する中堅・中小建設業がこれらの役割を担ってきたことである。

 政権が変わり、公共投資削減への切り込みは凄まじい。農業・福祉への異業種転換も、合併・協業化も、もう何年も言い続けられてきた政策、目新しさは感じられない。この10年間で現実に方向転換できずに多くの企業が建設市場から撤退していった。方向転換できたとしても成功事例はあまり聞かない。もちろん、地方の建設業にとってPFIの余力もなければノウハウもない、ましてや海外戦略は日本を代表する企業向けのメニューである。そして、縮小された公共投資の中で起きて来そうなことといえば、ひとつひとつの工事を小さくしながら削減された公共投資を幅広く発注しそうなことである。こうして今後の流れを公共投資を軸に考えてみると、海外・PFIに代表される大企業戦略と地方の小分けにされた小さな工事との狭間で置いてきぼりにされた地方を代表する中堅・中小建設業の姿が浮き彫りになってくる。地方を支えてきた「中堅・中小建設業の成長戦略」、ここに的を絞った政策が見えてこないとそのうち地方そのものが立ち往生する。(青柳 剛)

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