□ 「ねじれたハート」と「まっすぐな情熱」                                          平成21年11月30日


 「ため息のあと タイをゆるめ♪ くわえタバコに むせながら いつものように 灰皿さがし 恋も時々 疲れるね 今夜はひとり さっぱりひとり ねじれたハートは 休ませて♪・・・」、20年前に来生たかおと桃井かおりが歌った曲、「ねじれたハート」である。紅葉も終わりが近づき、冬の到来を感じさせる寒さがそうさせるのかも知れないが、急に聴きたくなってiPodに取り込んで聴きだした。そう、思い出したように、いつも突然、どうにもならないマイナスの気分は沁み込むようにやってくる。わびしさ、せつなさ、辛さ、悲しさ、やるせなさ・・・、そして揺れていく心、こんなところを味わう時の気分がたまらない。静かな夜に聴いていれば、夜の暗さと共に気持ちは益々重くなってくる。決して答えの出ない、マイナスの感覚に陥った気分を存分に味わうのに秋の夜長は役に立つ。

 マイナスの感覚を引きずっていた所為もあるのか、「男には不幸だけがあるのです。いつも恐怖と戦ってばかりいるのです」と弱々しいことを言いながら苦悩する夫・大谷とそれを支える妻・佐知の愛の物語、映画「ヴィヨンの妻」(太宰治原作)を見に行ってきた。「いまさら太宰かあ」とも思うが、観客の数は多かった。ヴィヨンとは、無頼で放蕩な人のことを言う。作家としての秀でた才能を持ちながら酒におぼれ浅野忠信演じる大谷、子供を抱え食うや食わずの生活をしている松たか子演じる妻・佐知、何があってもしっかりと夫を支えている妻というストーリーだ。どうにもならなくなった生活のために働きだした飲み屋の常連客の青年・妻夫木聡の演技は良かったし、伊武雅刀・室井滋の飲み屋の夫婦役も印象に残った。次々といろいろな身勝手な事件を引き起こす、どうにもならない夫だが、最後には愛人と心中未遂事件まで起こす。それでも、なじることもなく、夫に寄り添いながら締めくくるラストシーン、決してプラスに進むことのない生き方、重い映画である。

 それに対して、前に進むことの繰り返しといえば、勤労感謝の日11月23日、恒例の「早慶ラグビー」は面白かった。見ていると、肩がいつの間にか張り切っているのが分かる。観客数2万2千450人、秩父宮ラグビー場、立ち見がいるほどの満員のファンでいっぱいになっていた。今年は賑やかな一般自由席が面白そうだと思って、1時間も早く競技場に着いた。最上段の観客席に腰を降ろすと、ものすごい数の人たちが入場してくる。いつの間にか廻りは殆んど慶応の応援の人ばかり、どちらが勝っても関東大学ラグビー対抗戦で優勝を決める好試合、その所為か観客はいつになく多いのである。ましてや、慶応には9季ぶりの優勝がかかっている、慶応の関係者の期待は高まっている。試合の流れは、組織力に勝った慶応が終始優位な展開を繰り返した。ようやく早稲田は後半に追いついた。最後のせめぎあいは手に汗を握る戦いだった。結果は20対20の引き分け、激しい戦いの後、優勝決定は持ち越されたのである。

 少し遠回りになるが、試合が終わり、いつものようにラグビー場の東出口から帰る。絵画館前の銀杏並木を見るために遠回りをする。絵画館に向かって、実際よりも長く続いたように見える遠近法で演出された銀杏並木はいつ見ても素晴らしい。この銀杏並木を眺めると秋も終わり、年の瀬に向かう心の準備が出来ていく。文章を書いたり、読んだりするのは読み終わった後に心が揺れてじ〜んとするものばかり、どうにもならない切なさに眼が向いていく。生きていくには辛い、マイナスのことが沢山あることが、きっとそうさせる。そうは言っても、経営者、組織のリーダ-にとっては、少しでも前に向かってプラスに進んでいくことを考え続けなければ明日はやってこない。振り返ってばかりではいられない。答えの出ない、マイナスの感覚に陥った気分の「ねじれたハート」、何も考えずに前に進むラグビーの「まっすぐな情熱」、両方の間を行ったり来たりしながら歳は重ねられていく。(青柳 剛)

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