□ 少しだけ背伸びすること                                                平成22年3月2日


 久しぶりに講演をした。持ち時間30分という時間は中途半端でやりにくい、5分ほど時間オーバーをして無事終了した。講演時間の厳守は基本だと決めている。1時間の持ち時間といわれ、会場に着いたら急に「前の人が早く終わりそうなので、あと30分延長してもらえませんか?」と言われた講演会まであったことを思い出す。いつもは一時間半ぐらいの持ち時間だから、30分の時間はメリハリをつけて話す時間配分が難しい。短い分だけ流れが読みにくい。聞き手が消化不良で終わってしまえば何にもならない。短い時間だからといっても、講演会の目的は、単なる挨拶ではないからしっかりとしたメッセージを残さなければならないのである。講演を引き受けたときに話す中身のアウトラインは出来上がっているが、当日に向かう一週間ぐらい前から講演準備に集中するエネルギーはいつも膨大なものになる。きっと中途半端に終わらせたくない性格がそうさせるのだろうと思っている。

 先ず注意しなければならないのは体調のこと、当日風邪をひいた声で話をするわけにもいかないし、ましてや高熱で土壇場のキャンセルなんかは許されない。いろいろな予定が入っていても講演会の日にちにあわせた行動で体調を調整していかなければならない。夜の懇親会も断り続け、どうしても出席しなければならない席はなるべく早く切り上げるようにする。そして肝心なのは話の中身、最初にイメージしていたアウトラインが出来ていても話しの中身を詰めだすとチェックしなければならない点が沢山出てくる。それどころか、元に戻りだして組み立てし直す状況まで出てくることもあるから大変だ。持っている資料を引っ張り出しながら、特に数字の確認作業はしっかりとやらなければならない。こんな作業と思考を集中することを繰り返しているうちに、ようやく起承転結にまとめた全体の流れを自分の言葉で語ることができるようになるのである。

 考えてみると、30分でも1時間半の講演でも準備のためにいつも同じような時間をかけていることになる。ほかの仕事をしながらの作業だから、準備のためのストレスは日増しに募っていく。この頃に考えることといえば、「講演そのものを引き受けなければ良かったのに・・・」という弱気な気持ちさえも芽生えてくる。パワーポイントで作成された資料の推敲を重ねながら、後は当日、パワーポイントで映し出された画面を見ることもなく、しっかりと聴衆の反応を見渡しながら話が滑り出していければ、講演が無事終了ということになる。今回の講演のサブテーマが「むずかしいテーマをやさしく やさしいことをより深く 深いことを楽しく」だったが、話す中身と話し方そして資料そのものがサブテーマ通りだったかがいつも気になるところである。

 短かった講演も終わってみれば、それなりの爽快感と達成感が生まれてくる。ひとつのことに向かって纏め上げた成果がそうさせる。思考もきちんと頭の中で整えられている。考えてみれば、文章を書き続けてきたことも、身体を鍛え続けることも、新しいものに興味を持つことも、そして企業を経営していくことも、少しだけ無理をしながら背伸びし続けることである。同じことは続かない。同じ位置にとどまっていようとすれば、いつの間にか思考の幅も狭められ、マイナスに落ち込んでいってしまう。少しずつ背伸びしながら積み重ねていくこと、やがて積み重ねたものを積み降ろすだけのときはやってきそうな気もするが、まだまだ「少しだけ背伸びすること」を止められそうにないのである。(青柳 剛)

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