改革はいつするんだろうかと考えてみれば、もちろん厳しい時にするのが一番だ。どんな時でも改革の気持ちは持ち続けなければならないが、穏やかに平穏に組織が流れているときには渦を巻き起こすような流れを作るのは誰が考えても難しい。今の状態がそのまま続くと思うから改革の機運はなかなか盛り上がらないし、大きな流れを作ろうと思っても厳しさを実感しているときに較べて何倍ものエネルギーが必要となるのである。組織の動かし方として今の政界の動き方を見ていれば参考になることは多い。夏の参議院選に向かって、うまく大きな渦を巻き起こすことが出来るかどうかが試されているのが自民党、そして歯がゆいほどに、最近の報道を見ているとなかなかそうはなりそうもないのが自民党である。「戦う顔つきになっていない」、「怖い顔つきで話をしすぎる」、「三角形の目つきが暗い」などなど、変えようもない執行部の顔つき批判まで出てくると、これは内向きの根が相当深い、そう簡単には改革は出来そうにもないという気にもなってくる。
去年の夏の選挙で渦巻いた流れは凄かった。自民党の自滅、オウンゴールとも言われるが、こういったレッテルを貼ってしまえば状況分析はそこで止まってしまうのである。むしろ民主党の何が良かったかを正面から分析する必要がある。大きな枠組みで言えば、戦後50年以上にも亘って続いてきた自民党一党支配の政治が変わるかもしれないという予感、いや確実に政権交代が起きるという期待感の流れが大きく後押しをしたのである。改革に向かう敵がすぐそばに見えていたということである。加えて、分かりやすい政策が有権者の心を揺り動かした。もう何度も言われてきたが「コンクリートから人へ」に始まり、徹底的に無駄を省いてその財源を子供手当て、高校授業料無償化、農家の戸別所得補償、高速道路料金無料化などに廻していくというマニフェストが他党より有権者の心を掴むことに抜きん出ていた。実際にコンクリートに象徴される建設産業で働く人たちでさえ、かなりの人達が民主党の候補者に投票したから、考えられないぐらいの大きなうねりとなって300議席以上も獲得したのである。
こういったとんでもない厳しい逆風の渦の中でも勝ち残ってきた自民党議員の勝ち方を学んでみることは面白い。しかも順風が吹いた郵政解散総選挙で初当選し、今回また生き残ってきた人の戦略こそ参考になる。そんなことを考えながら、講演依頼したのが福井県1区選出の稲田朋美衆議院議員だった。最初の選挙は、公示2週間前の立候補、準備不足もあったのだが、「落下傘候補」といわれながら373票の僅差で勝ったという。今回の選挙は、開票直前まで、すべてのマスコミ調査の形勢不利な予想に反して、前回よりも2万票も増やし、相手候補に7000票もの差をつけて議席を確保したのである。勝利の要因は、一言で言えば前回の選挙は「落下傘候補」といわれたが、今回は福井弁でいう「おっかさん候補」に徹することによって有権者の心を掴んだことである。民主党のマニフェストに反応しているだけでは、相手の悪口を言っているだけ、いかにして地域の人たちとの信頼を「おっかさん」として築くことが出来るかどうかを試されたのである。
政治信条の好き嫌いは脇に置いておくとしても、子供手当てから教育、そして日本の国のあり方、政治そのものに対して稲田朋美衆議院議員の考え方はしっかりと整理されていた。この辺も勝ち残ってくる大きな原動力になっていたことを否定することは出来ない。最近の政治状況は、政権交代という大きな期待感のうねりがあったのに、この半年の間で国民の期待感が急速に失われつつある。いろいろと言われているが、3月8日の毎日新聞の朝刊、論説委員山田孝男の「革命の堕落について」が、この辺の状況に対して、『一連の逸話で思い出すのがイギリスの作家、ジョージ・オーエルの「動物農場」である。ある日、家畜たちが一斉蜂起して農場主ジョーンズを追っ払った。農場は、動物の、動物による、動物のための農場になった。ところが、リーダー格の豚が次第に力を握り、いつしかジョーンズに変わる暴君にのし上がった・・・。豚の言動をいぶかるほかの動物たちが異を唱えるたびに、豚はこう説いた。「ジョーンズが戻ってきても良いのか?」。この説得は「自民党と官僚の癒着時代へと逆戻りしても良いのか?」という民主党応援団の常套句と良く似ている。・・・』と鋭く指摘している。「政治とカネ」、長崎知事選、ガソリン暫定税率廃止の撤回、子供手当ての支給額の減額、普天間問題、公共事業の予算配分情報などの対応の拙さのことを言っている。民主党も自民党も激しく変化が起きている。お互いに厳しい変化となっているが、厳しいときこそ改革の道筋が見えてくる。「改革はいつする?」と考えてみれば、当面どちらも厳しい夏の参議院選挙、これから数ヶ月間、組織の動かし方に学ぶところは沢山ありそうだ。(青柳 剛)
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