建設業の経営に本格的に携わるようになって17年近くが経った。この間、数字に確固たる根拠がある訳でもないが、「10分の一の理論」の考え方だけは守ってきた。どういうことかというと、年間売り上げの「10分の一」以下の工事に的を絞って受注を繰り返していくという考え方である。例えば、20億円の売り上げのときは一番大きな工事でも2億円位下、30億円ならば3億円以下の工事の積み重ねで建設業の経営をしていくことが建設業の仕組みに合っているということである。要は分相応、石橋をたたいて渡る経営をするということである。
確かに降って沸くようなおいしそうな大きな話は舞い込んでくる。売り上げの半分どころか、1件の工事で1年間分の売り上げを賄うような話もある。受注できれば経営は一気に楽になり、その年の目標はあっという間に達成されると喜んでいても大抵は受注に結びつくことはなかった。その上受注できたとしても、総売り上げ分の工事をこなすのだから、全員で取り掛からなければこなすことが出来ない。しかもこの1件で会社全体の利益となるようならば気楽だが、なかなかそうはならない。それどころか、赤字になってしまえば取り返しのつかない1年を送ることになるのである。
全社挙げて取り組んだ結果、仮にその工事がうまくいったとしても、工事が終わった後には今までの顧客が、いつの間にか、この間に離れていってしまっていることに気づく筈だ。ひとつのものに集中するあまり、今まで培ってきた顧客の対応がおろそかになってしまうことが目に見えている。建設業の経営は、現場のていねいな技術力に支えられている。深掘りしながら、コツコツと地味な中にも継続していくことが大切なのである。
建設業は、顧客の信用はもちろん、技術者と協力会社のネットワークを時間をかけてつくりあげることが基本、急に成長するということはあり得ない。階段を一歩一歩上るような経営姿勢が求められている。上がったり下がったりのエレベーター型はなじまない。建設投資の量もここ10年余りの間でどんどん減り、ピーク時の半分以下にまでなってしまった。建設産業全体でこの厳しい時代にどうしたらいいかと考えてみれば、改めて「10分の一の理論」の分相応の大切さが浮かんでくる。地方の小さな企業は背伸びすることなく、逆をいえば、世界に通用するような大企業は小さな工事へと眼を向けることなく、それぞれの身の丈にあった経営をすることである。「10分の一の理論」、業界全体に拡げてみれば「棲み分け」論に置き換えることが出来るのである。(上毛新聞 9月15日)
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