年が明けて業界の雰囲気も昨年とは違い、具体的な動きがあっという間に広がってきた、「生産性の向上」と「担い手確保育成」のことである。ここ数年の業界の動きは激しい。恒例の1月5日の業界11団体の新春賀詞交歓会、石井啓一国土交通大臣の年頭のあいさつを要約すれば、昨年の「生産性革命」宣言をさらに進めた「生産性革命 前進の年」と「建設業における働き方改革」だった。このふたつの政策に対する国土交通行政に向けた強い意気込みが伝わってきた。事業量の確保に加えて労働環境の改善に正面から向き合えば業界地図はどんどん変わってくる。大手と中小、都市と地方、地域別、業種間など業界環境の変化を格差で論ずることは容易い。ここ数年の業界の変わりようをもう少し掘り下げて考えて見よう。
格差といえば建設専門紙を見ていると面白い、同じ日の1面と裏返した2面で全く違った視点の記事が書かれている日もある。毎日読んでいる建設業界の人にとっては当たり前の感覚になっているだろうが、一般紙にはありえない。業界以外の人が読めば、「本当のところはどうなっているんだろう?」、建設業界が不況なのか、景気がいいのかさえ分からなくなってくる。ここ数か月間の見出しを拾い上げてみるだけでも、「6割が受注高増加」「粗利益率10%越え過半数」「活況背景に選別受注」「工事量単体繰越高2兆円超え」「設計施工一括特命受注」「大型化の波」・・・など、大手主要ゼネコン26社好調の話題には事欠かない。数年前までずらりと並んでいた厳しい決算状況の企業はもう見当たらない。もう一方では「地方の工事減少深刻」に始まり、「地域間格差の解消」「工事ごとに利益確保を」「限界工事量割れ地域拡大」「災害時の対応懸念」・・・など地域建設業者の深刻さを伝える記事は相変わらずだ。
大手と中小、地域間格差などを「二極化、まだら模様」で括ることもできるが、もう少し小さく各県単位に掘り下げてみると違った読み取り方も出てくる。身の回りの県を見てみれば分かりやすい、大手と中小の全国版の格差がそのまま各県単位で縮図となって表れている。そしていつの間にか地方のトップクラスのゼネコン(ローカルゼネコン)がきっちりと経営改善され、立ち直ってきたということだ。厳しかった時の業態がそのままのゼネコンであれ、経営陣一新、会社名まで変え経営体質を一気に改善したゼネコンであれ、みんな「ローカルトップゼネコン」として復活しだした。新規に上場を視野に入れたゼネコンもあるという。リーマンショック前の業界地図へと戻りつつある。そして県の広がりからもう少しエリアを限定して見てみても同じような縮図が起きている。
「生産性革命 前進の年」に向けた動きはどんどん加速化されてきた。「建設現場での2割の生産性向上」、土工を中心としたICT活用工事は国から県工事にまで広がっている。i-Construction推進コンソーシアムをはじめ、官民一体となった協議会も各県単位で立ち上がりだした。工事現場の4週8休もそう遠くない。現場で働く技能労働者の評価・処遇改善へとつながる「キャリアアップシステム」もこの秋には具体的に運用開始となる。「生産性の向上」と「担い手確保育成」こそものづくり産業としての建設業の基本。「いい人材を集めて効率よくものを作ることができるかどうか」、それが建設業としての魅力、ブランド力となる。民需を含めた市場環境の良さもあるが、大手ゼネコン、「ローカルトップゼネコン」のブランディングの勢いの間で人材を囲い込むどころか、処遇改善にも踏み出せない、「限界工事量を割り込んだ地域の限界企業」が佇む業界地図が鮮明になりだしたということか。